行ってみたい山、見てみたい絶景、歩いてみたい場所・・・
思い描く妄想は色々とストックされていているのだが、
お小遣い制サラリーマンの遊びでは
自由時間、家庭内事情、天気、経済的状況、等々全てが揃う事は困難で
2年越で是非行きたいと思い続けているものの中々叶わずにいて
自分の中の優先順位で常にトップにあったコースが在る。
越前甲~(加賀)大日山の稜線がそれだ。
急峻な痩せ尾根に雪屁が発達した景色の写真を見て、
是非、雪がある時にここを歩いてみたいと思い焦がれていた。
除雪終点の駐車(入山)位置から大日峠~甲を経て大日までは片道約7Km。
雪の状態や天候によっては日帰りでの往復にはリスクが伴う場合もある。
大日へ至る稜線から分岐した位置に加賀甲の大日避難小屋が在るが、
家庭を想うサラリーマンの一人遊びは日帰りが基本。
こんなコースは、雪が降る時期には厳しい。
残雪の春山で、終日天候が安定している事が必須条件。
今日は正にそのコンディション。
いつやるか!
今でしょ!
4時前に起きて、暗い内に家を出る。
駐車位置にはテントが張ってあったりして、2パーティーが準備をしていた。
県外ナンバーの方々と、挨拶や会話を交わしながら準備をする。
大人数は何かと時間の流れがゆっくりだ。
6:00 さあ、単独の私が先行して入山。

序盤は林道歩行。
勝山市内の路面温度表示は0℃以下だった、
山間部のここは雪が硬く良く絞まっていて歩き易い。
素直に林道を詰めて大日峠から稜線に出るのが最も簡単だが、
私には以前から気になっていたコースがあった。
甲側から大日峠へと続く谷側を眺めると、
大日峠と更にその東に在る古道の新又越の更に向こうに一際高い稜線が在る。
あの向こうにはどんな景色が広がっているんだろう?
当然登山道なんて無いに違いないが、
こんな場所の尾根だから雪が積もっている時期なら歩けるはず。
あの向こうに見える景色を見たい。あの尾根を歩きたい。尾根歩きは気持ち良い。
折角の好天で、時間は充分に在る、
大日へ向かうにはかなり遠回りになってしまうが、決行するつもりで来た。
林道が上の堰堤の手前で大きく左へ曲がって登ってゆく地点で、
私は林道から離れて左岸を進む。
(川を上流側から下流方向に見ての左右で、右岸・左岸としています)
この谷の東側が目指す尾根だから、
単純に、高い方高い方へと目指して歩けるルートを探してゆく。
谷を挟んだ向こう側に、朝日に照らされつつある越前甲。

やがて傾斜が増してきてキックステップで登ってゆくが
標高が上がってくると斜面が硬くなってきて滑落の危険を感じる程になる。
トラバースやジグを切ろうとすれば視線下方は谷。直登が最も心が落ち着く。
なぜもっと手前で予測してアイゼンを履かなかったかと後悔するが
こんな斜面上で荷を降ろして装備換えなど危険で無理なので
強引に、慎重に、時間を掛けて稜線まで上り切った。
〈 今日歩いたルート 〉 (拡大します)

さあ、初めての尾根、 7:10
期待通り、素晴らしい道でした♪ さっきまでの緊張が解け、一気に心が躍る。

右手側へ視線をやれば、北谷から続く谷を挟んで木立の間から山々が見える。

今日の下界は霧が埋めている。
白山も、取立~大長も、経ヶ岳も、雲海に浮かんで素敵な眺めだった。
この時間、白山はまだシルエット。

尾根上にはカモシカの真新しい足跡があった。親子連れの様。

素敵な尾根歩きが続く。
7:20 1012mピークまで来ると、甲へと続く尾根が見渡せてくるが、
まだまだアッチへは行かない。

勝山市街方向を見渡すと、雲海の向こうに山が浮いている。
池田方向、銀杏峰~部子山か。

地図での予習では、
このピークから県境に沿って左へ折れて向こうの尾根へ上り返すつもりだったが
思いのほか谷が大きく深い。南側のこちらは雪で埋まっている気がしない。
右方向奥へまだまだ歩き易そうな素晴らしい道が続いていたので、
尾根末端まで下って、谷を渡って隣の尾根末端へ移る事にした。
気掛かりは・・・渡れるか? 渡渉か?
大きく下っての登り返し・・・
谷の下の方は良く見えない。
まあ、いざとなったら水の中を歩くさ!開き直って下ってゆくが、
最底部に、上手い具合にブリッジが見つけられた。

大日峠へと続く尾根に取り付く。
序盤はかなりの急登。キックステップ。
上の方は徐々に穏やかになってきて、先ずは一つ目の鉄塔を目指す。

7:55 一本目の鉄塔に到着。

山の中で人工物は好まないが、
最高の青空が広がる今日は、こんな眺めも悪くない。
登ってきた方を振り返るとこんな感じ。

鉄塔の股の間を抜けて、
新又越~大日峠への尾根を進む。

向こうに2本目の鉄塔が見える。次の目標はあそこ。
右手側には、一際白いテッペン、
最終的に目指す大日山。

と、遠いなぁ~。
2本目鉄塔まで登って来ると、
乗り越えてきた尾根とピークが見渡せる。

2本目の鉄塔も股をくぐって、
ここから先は大きな歩き易い尾根。

気持ちに余裕が出てくる。
こんなの拾った。

何?
甲へのダイレクトな尾根になってくるとグングン標高が上がって、
見晴らしが良くなってくる。
白山はどんどん大きく感じられ、

取立~大長も良く見えて来る。

只、さっきからず~っと気掛かりな事。
大日峠への素直な道よりも大きく回り道してやってきた私。
通常より1時間は余計に掛けてきたはずだが、
大日峠が見渡せてきたのに、その先に居ると思われた先行者が全く見えない。
峠鞍部を越えても、昨日のものと思われる足跡やスキーの跡があるだけで、
先行者の気配はゼロ。
『ひょっとして、私のトレースに惑わされてルートを誤ってしまったのではないか?後続者の迷惑になってしまったのではないか?出発前に、通常ルートで登らない事を告げてくるべきだったのか?でも、そんなのって何だか偉そうで気が引ける・・・ でも、配慮が足りなかったかも。。。』
お願いだから自分の判断で歩いて来ていてね・・・と、祈る様に願った。
北側の斜面へ寄りながら急登をやっつけてゆくと

痩せ尾根を登りきった上には広大斜面。

この真ん中を気持ち良く歩いてゆけば、程なく頂上。
9:20 越前甲頂上

素晴らしいパノラマだ。 (↑拡大します)
誰も居ない。私が一番乗り。
やはり後続が心配になった。
2本目の500mlPETボトルを出し、水分補給と軽い補給食。
大休憩はせず、足早に山頂を後にする。
目指すのは向こう。

ここからが、夢見ていたワクワクの尾根。
地図から想像していた以上にアップダウンがある。
下って、登り帰して、下って、登り返して・・・
最初の難所的な場所はこんな感じ。

雪屁の尾根へと続く。

甲を振り返ると、ボッコリ突き出た異様な山容。

こちらから見るのは初めてだ。
なだらかな大きな場所もあるが、

相変わらず切り立った場所が多い。

吊尾根上部では当然左右へと雪がズリ落ちてゆくので
頂部が雪面の下に隠れて割れていたりして、何度も足を踏み抜く。
くねくねと進む尾根、雪屁が左右に入れ替わる箇所も多く、
自分の右も左も亀裂が出来ている箇所もある。
両脇急斜面。狭い尾根から外れる事が出来ない。
どのルートを取るのが正解か?
何処に足を置いてゆくのがより安全か?
判断に自信が持てない場面が何度かあった。
大きく下る痩せ尾根の向こうに、
ネットで何度も見た核心部が見えてきた。
あの、正面尾根を直登しなければならない。

写真では立体感が無く、急傾斜が伝わらない。
あの迫力が全く伝わらないのが凄く悔しい。
稜線上を塞ぐ様に、真ん中やや上に岩が露出している。
あの場所は、右から巻いて強引に斜面を這い上がるか・・・?
核心尾根に取り付く前から、その眺めにビビッて
明らかに心拍が上がって胸がざわついている。
本能的に、強く危険を感じて心が嫌がっている感じ。
でも、そんなドキドキがいつのまにか高揚感になって、燃えている自分。
意を決して、慎重に慎重に登る。
遠目には見えていなかった亀裂があったりして難儀した。
さて・・・来たぞ・・・
ま、マジでか?そこを行くの?

岩の右側は傾斜が強く危険。無理っぽい。
取り敢えず岩の直下まで進むと、そこにはクレバス。
左側に潅木が生えていて、それに掴まればどうにか体を上げられそう・・・
割れ目を跨いで枝に手を伸ばす。
上方へ視線をやると、岩に赤ペンキが見えた。
どうやら夏道も岩の左から巻いている様だ。
どうにかこうにか這い上がると、
徐々に広く穏やかな景色が見えてきて、ようやく心が落ち着いてくる。
が・・・
振り返って見渡せるのは・・・自分が歩いてきたあの道。
ナイフリッジの様な尾根の連続を、また帰ってゆかなければならないかと思うと
やはり心がざわついて心拍が下がらない。

まあ、帰りの事は帰りに考えよう。
前を向けば、
目指す頂が間近に見えている。

なだらかな大きな尾根を、のんびり歩く。
直ぐそこだと思ったが、
景色が大き過ぎて距離感を誤っていた。歩けど歩けど、中々近付かない。

ここまでの道中、
さすがに春山は黄砂の影響などで純白の雪面は無かったが、
ここまで登ってくると今でも降雪がある様で、
上部は真新しい新雪♪
真っ白なでっかい斜面に心が躍った。

大きな景色は、本当に素晴らしいね。 魅了される。
10:25 大日山山頂到達。
今日は絶好の山日和、入山者も多かったはずなのに、
帰りにも誰とも擦れ違わなかった。今日、大日山へと歩いたのは私一人。
白山ドッカン♪

北の方へ目をやれば、あの霞の向こうは日本海の水平線。

西を向けば、
福井の平野から眺めるのとは裏向き姿の火燈山、富士写ヶ岳。

大日小屋は・・・また今度寄ろう。帰りの行動時間に余裕を持ちたい。

丈競の避難小屋の向こうには、国見岳の風車もはっきり見えた。

ぐるり360度の展望、素晴らしかったです。
朝の内は静かで穏やかな山でしたが、
この辺りから徐々に南風が吹き始めました。明日へ向かっては下り坂。
ぐるぐると回って景色を堪能して、名残を惜しみながら、
手早く最低限の補給をとって、山頂を後にします。

充実の疲労感、最高の気分です。
難所を慎重にクリアして、何度も登り返し。

徐々に疲労度が増してきて脚は辛いが、とにかく最高の青空。気持ちイイ。
勝山市側から奥越が見渡せてくると、美しい箱庭のよう。

甲への最後の稜線。

11:30 再び越前甲頂上。
大日山を振り返って、別れを告げる。

風が強くなってきて、ここでも休憩は無し。
白山が見守ってくれる最後の痩せ尾根を下る。

何度も何度も振り返って、
ブナ林と青空のコントラストを楽しんだ。

大日峠からは、帰りは素直に谷を下って通常ルートに乗る。

林道に出て、もうこのまま一気に車まで戻ってしまおうかとも思ったが、
折角のお天気だし、何だか勿体無い。
ゴールは近かったケド、何だか終わってしまうのが寂しくなって
ガードレールに腰掛けて、荷を解いて、
のんびり飲み食いした。

気温が上がって雪が緩んで、何度もズブズブはまって、
帰りの林道歩行は本当に辛かった。
13:05 ゴール。駐車位置に戻る。

コースの割に随分早く感じるが、
今日は最低限の補給以外に休憩をしなかった。
写真を撮る以外は殆ど足を止めていない。とにかく歩き続けた。
もし、
この日記を参考にされる方がおられたら、
この時期の山は雪の状態にも大きく左右されますし、
コースタイムには充分な余裕を持って臨んでください。m(__)m
無事これ何より。
トラブル無く帰ってこれて有難うございました。
山の神に感謝。
今日も快く送り出してくれた家族に感謝。
山は本当に素晴らしいです。
↓ 今日歩いた大まかなコースデータ
だいたい、だ~いたいこんな感じ。
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